将来費用は「想定反論メモ」の一文で通り方が変わる:高次脳機能障害の積算表を“争点整理の道具”にする(弁護士向け)

結論(先に要点)

高次脳機能障害(TBIを含む)の将来費用は、必要性(前提条件)と数字(単価根拠)を揃えても、最後に「反論で崩れる」ことが少なくありません。
そこで将来費用積算表(フル版)では、費目ごとに

  • 相手方の想定反論(制度で足りる/家族で足りる/過大/後出し 等)
  • こちらの再反論(返し方)
  • その根拠となる資料名・日付・該当箇所

を、表の中に“短文で”置いておくと、積算表が単なる金額表ではなく、争点整理の道具になります。
結果として、照会・示談交渉・訴訟のいずれでも「説明の筋」が通りやすくなります。


※本記事について(シリーズ位置づけ・免責)

※本記事は「将来費用積算表(高次脳)」シリーズ第5回です。
第3回では前提条件(必要性・担い手・制度代替の限界)、第4回では数字の作り方(費目×頻度×期間×単価根拠)を扱いました。本稿では、それらを反論耐性のある形で表に実装する方法として、「想定反論→再反論」の入れ方を解説します。
※本記事は情報提供であり、医療行為(診断・治療)ではありません。


将来費用が“最後に崩れる”典型(反論への備えが表にない)

積算表が金額としては整っていても、次の状態だと崩れやすくなります。

  • 反論が出てから、その場で理由づけを探す(後追いになる)
  • 「制度で足りる」「家族で足りる」に対する整理がなく、一括で否定してしまう
  • 反論ポイントが費目ごとに違うのに、説明が総論のまま
  • 根拠の引用が散らばっていて、表を見ても「どれに載っているか」分からない

将来費用は、相手方が“勝ち筋の反論テンプレ”を持っていることが多い分、表の側が先にテンプレを持っているかで差が出ます。


積算表(フル版)は「金額表+反論表」にすると強い

将来費用積算表(フル版)は、費目・頻度・期間・単価だけで完結させず、最低限次の2つを表に統合すると運用しやすくなります。

1)根拠列(資料に着地させる)

  • 根拠資料(資料名/日付/該当箇所)
  • 観察の具体(どの場面で、何が起きたか)
  • 制度情報(利用状況、上限、対象外、空白)

2)反論列(争点整理の起点にする)

  • 想定反論(相手方の言い方で短く)
  • 再反論(こちらの返しを短く)
  • 追加で強化する資料(必要なら)

表がこの形だと、「この費目は、どの反論が来て、どう返すか」が一覧になり、交渉・照会対応でブレにくくなります。


「想定反論→再反論」欄の書き方(長文にしない)

ポイントは、論文を書かないことです。表の中では、一言で方向性が分かる程度に留めます。

想定反論の例(短文)

  • 制度で足りる
  • 家族で足りる
  • 便利なだけ/過大
  • 後出し/初期記載がない
  • 重複(同じ目的の二重計上)
  • 期間が長すぎる(生涯一律)
  • 単価が高い(見積の妥当性)

再反論の例(短文)

  • 制度を織り込んだ上で“不足分”のみ(上限・空白・対象外)
  • 家族支援は現に発生、継続可能性に疑義(同居・就労・高齢化)
  • 必要性はIADLの破綻場面に紐づけ(具体エピソードあり)
  • 初期は薄い前提、急性期〜生活期を時系列で補完(限定性)
  • 目的で整理し役割分担(同時稼働しない/控除調整)
  • フェーズ分け(復職前後・環境変化)で合理化
  • 単価は見積/制度単価/実績で着地(相場だけにしない)

この「短文の芯」があるだけで、反論が来たときの初動が速くなります。


典型反論別:表に入れておくと効く“返し方の型”

ここは第3回の前提条件・第4回の数字の話を、反論に合わせて再配置するイメージです。

反論①「制度で足りる」

表に入れると効く要素

  • 制度でカバーされる範囲(回数・時間・単価)
  • 上限/空白/対象外(不足理由)
  • 不足分の算定(制度控除・調整後の自費)

再反論の芯

  • 制度を否定せず、制度を織り込んだ上で“不足分”のみを主張する

反論②「家族で足りる」

表に入れると効く要素

  • 現に家族がしている介入(誰が/何を/頻度)
  • 介入しないと起きる事象(事故・逸脱・金銭トラブル等)
  • 継続可能性(同居前提・就労・高齢化・健康状態)

再反論の芯

  • 「家族がやっている=不要」ではなく、「必要だから発生している支援」であり、将来の継続可能性は別問題

反論③「過大(便利なだけ)」

表に入れると効く要素

  • 生活課題(目的)と費目(手段)の対応
  • 過大に見える部分の調整(頻度・期間・役割分担)
  • フェーズ(節目)設定

再反論の芯

  • 目的→手段の筋を通し、フェーズで必要な時期に必要な分だけにする

反論④「後出し(初期記載がない/軽症だった)」

表に入れると効く要素

  • 初期の限定性(初診が短時間・要約的である前提)
  • 急性期→回復期→生活期での観察の連続(時系列の線)
  • 場面依存・負荷依存で崩れる説明(“短時間の良好所見”に回収されない)

再反論の芯

  • 初期記載の薄さを“ない”にしない。時系列で限定性を示し、生活期の破綻に接続する

表の「列(カラム)」例:最低限この形にすると運用できる

将来費用積算表(フル版)を“反論表”としても使うなら、列は次の形が運用しやすいです。

  • 費目
  • 目的(埋めたい生活上の課題)
  • 内容(誰が何をするか)
  • 頻度
  • 期間(フェーズ)
  • 単価
  • 単価根拠(見積/制度単価/実績/相場)
  • 算定式(頻度×単価×期間)
  • 制度でカバーされる部分(控除・調整)
  • 根拠資料(資料名/日付/該当箇所)
  • 想定反論
  • 再反論(短文)
  • 追加で必要な資料(任意)

「想定反論/再反論」を入れるだけで、表の用途が“金額提示”から“争点整理”に広がります。


実務で強い進め方:スクリーニングで“反論の当たり”を先に付ける

反論欄は、いきなりフル版で埋めるより、先に将来費用スクリーニング(A4 1〜2枚)で

  • 主要費目ごとの「想定反論」
  • 反論に対する弱点(根拠の空白)
  • 追加取得すべき資料(優先順位)

を付けてから、フル版の積算表に落とすと手戻りが減ります。
「反論が来てから考える」ではなく、「来る反論を前提に表を作る」方が、時間効率も結果も良くなりやすいです。


次回(第6回)予告

次回は、将来費用積算表(フル版)を依頼状ドラフト/主治医照会/意見書とどう接続するか(“どの点を医師記載で固定したいか”の設計)を扱います。

ご相談(弁護士・法律事務所向け)

交通事故・TBIを含む高次脳機能障害案件について、受領資料を「資料名・日付・該当箇所」の根拠付きで時系列に統合し、矛盾・空白・反論ポイント候補を整理します(メール完結)。

  • 一次確認(資料スクリーニング):通常 33,000円/3営業日
  • 【初回限定】新規の弁護士・法律事務所さま:一次確認 1件無料1事務所1回/重複割引なし
  • 医学意見書:220,000円(税込)
  • 将来費用:将来費用スクリーニング 55,000円(5営業日)/将来費用積算表 220,000円〜

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注意:本記事は情報提供です。医療行為(診断・治療)ではなく、後遺障害等級の認定・訴訟結果等の保証はできません。個人の方からの直接依頼は原則お受けしていません。

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